約20年前に来られたA様は、少し不安気であるけれど気丈な女性でした。「私の脚はこんなんだけど出来る?」A様の片脚は、外側へ向かって開いて動かない状態でした。歩行には杖が必要な状態です。当時のカウンセリング内容と今の私がわかる範囲で統合すると、強い股関節疾患に対する治療として、関節固定術を受け関節機能よりも痛みや機能障害の回避の為に骨盤側と大腿骨を直接固定してしまうという、今では人工関節等の医療が進んでいるのでまず選択されない、そのような治療を受けられた方だったのだと思います。
 私:「触ってもいいのですか?」A子様「大丈夫だから、とにかく辛いの。」
 私:「わかりました。触ってはいけないところ等がありましたら教えてください。」ほんの一瞬でお受けすることになりました。
 一歩一歩を杖と共に一生懸命前へ移動されました。施術が始まりA子様がお話をされます。「私の脚を見てびっくりしたでしょ?こんなんだからどこの整体行っても断られるの。」私:「もう動かないのですか?」A子様「そう、もう完全にくっついているから。当時はね、このような治療しかなかったの。」
大変辛い思いをされてきたことは想像に容易いそのお身体を、当時の私が出来る限りの施術をしながらそのような会話が進みます。少しずつお楽になられていくA子様がまたぽつりと、「私は週に数回、家でヘルパーさんのお世話になっているんだけど、その時にありがとうってお礼をいうでしょ?そしたらね、その子が『仕事ですから。』って言うの。私、それが寂しくて。。。」。施術が終わり、少しは身体が軽くなられた笑顔の反面、気丈にまた一歩一歩一生懸命歩いて行かれました。私は、先ほどのお話を聞きながらA子様の立場を想像してみました。もちろんヘルパーさんに悪気はありません。そういうことか。。。それからの20年間、私はお客様からお礼やお気遣いの言葉を頂いても「仕事ですから」という言葉を一度も使わずに来れました。あの時にそのことを教えて頂いたA子様には今でも感謝しています。私は、今もありがたく施術家としてお仕事をさせて頂いていますが、お人との出会いはとても尊いものだと感じます。
 A子様、お元気でいらっしゃいますか。もしもこのブログを見て頂くご縁に恵まれましたら、また是非私のところへお越しくださいませ。喜んで私の出来る限りの施術をさせて頂きます。A子様、ありがとうございました。