もう20年以上前の事、私は脚の手術を終え回復期として地方の病院にいました。回復期とはいえ長い道のりの最中、精神的にも厳しかった記憶があります。その病院は小高い場所に建っていて、森のような中庭があったり、少し離れた場所にヤギがいたり、小川が流れたりしているような自然にとんだ場所でした。私はよく両松葉づえで散歩に出ました。中庭を抜け結構な斜度の坂を下りヤギを見に行き、そして小川へ移動するのです。ある日、小川を見下ろすと60代頃の男性が小川から自家製の仕掛けを引き上げて中を覗いています。日常と違う光景に私は楽しくて男性に声をかけました。「何が獲れるんですか?」「ハヤとかなんだけど、上の池に放流してそこで魚が見れるようにならないかなと思って。。。」。病院の中庭には小さな池があって、男性は病院が経営するシニアハウスに住んでみえる方でした。「ついて行ってもいいですか?」坂を上り池へ着くと男性はそろっと魚を放流します。魚は元気よく泳いでいきます。「ちょっと池は温度が高いからどうかな。」そんなこんなで私達は近くのベンチに座っていました。男性が話してくれます。「僕はここに住んでいてね。」シニアハウスを指さして言います。「時々こうやって川にいるんだよ。」続けて男性が話します。「私が小さい頃、外で遊んでいた時にちょっとした怪我をしてね、そこからばい菌が入ったのかな、どんどん脚が腫れてきて最終的には像の脚みたいになって。病院に行ったんだけど治せないと言われて。ショックでね。。。」男性が急にその話しを始めたので、あらすじが読めないまま話しは進みますl。「もう一生この脚なのかと落ち込んでね。。。でもある日からどんどん膿が出てきて、像の脚みたいだったのが見る見る細くなって、遂には元通りに治ったんだよ。」そうか、ご自身も脚が悪かったというお話しをしてくれたのか!そして男性はこう締めくくります。「人間の身体は凄いから。ちゃんと治るように出来ているから。」と、独り言のように言って終わります。男性と会ってから終始、私の脚の事は聞かれていないし興味も示さない感じでした。今思い出すと涙が出ますが、男性が私の脚について何も聞きもせず、興味もない素振りをしていたのは男性の優しさ。最後に「人間の身体は・・・」のメッセージは、私の脚のことは詳しく聞かないけど、希望と励ましだったことが今になっては胸に迫ります。